スイッチOTC医薬品推進に関する政策提言書を発表
一般社団法人 日本パブリックアフェアーズ協会アドバイザーである武藤正樹(日本医療伝道会衣笠病院グループ理事)は、2023年10月2日に政策提言レポート『偽造医薬品横行の個人輸入問題と、スイッチOTC医薬品推進のための5つの提言』を発表しました。
サマリー
コロナ禍が長期化し、医療へのアクセス制限が長期間課される中で「セルフメディケーション」が注目を集めている。また、日本の少子高齢化は簡単に解消する問題ではなく、2040年問題も危惧されている状況にある。そのため、このまま少子高齢化が進めば医療の需要と供給のバランスが破綻することは自明である。このような背景から、政府はセルフメディケーションの推進に積極的な姿勢を見せており、セルフメディケーションの推進に向けて「スイッチ OTC医薬品の加速」を改革の方向性として挙げている。しかし、2023年現在においても、日本は国民皆保険制度の充実と医療機関へのフリーアクセスによって、患者が軽微な不調でも医療機関を受診しやすい環境が整えられていることを背景に、全医薬品の中でOTC医薬品が占める割合が6.9%とG7の中でも最低であり、その進捗は芳しくない。その結果、医療財政の逼迫や医療機関における外来対応時間の増大、適切なタイミングでの医薬品へのアクセス阻害等様々な問題が生じている。そこで、本政策提言書では、これまでセルフメディケーション推進、スイッチを含むOTC医薬品の普及拡大との関係において十分な考察がなされてこなかった「医薬品の個人輸入問題」について取り上げ、日本におけるスイッチOTC医薬品の拡充がセルフメディケーション推進と個人輸入による偽造医薬品被害の防止の一助となるのではないかとの視点から、現状のスイッチOTC医薬品の承認スキームや政府のセルフメディケーション推進施策の方向性や対策を提言として示す。
個人輸入される医薬品の多くは国内では未承認医薬品であり、偽造医薬品が含まれることがある。個人輸入を利用する理由として、薬局で正規品を入手できない等が挙げられている。そのため、手軽に正規品を購入できるルートが少ないことが個人輸入の利用の要因となっており、ひいては偽造医薬品被害の拡大につながっていると考えられる。さらに、インターネットを経由した医薬品の購入は一般的になりつつあることから、今後医薬品の個人輸入はますます増えることが予想され、それにともない偽造医薬品による健康被害が増加すると予測できる。このことから、医療用医薬品のスイッチOTC化を促進することで正規品へのアクセスルートを拡充し、未承認医薬品や偽造医薬品の被害から一般消費者を保護することが急務だといえる。
スイッチ OTC化促進の進捗が芳しくない理由は、大きく3つ考えられる。1点目は、スイッチOTC医薬品に関する政府目標やロードマップが存在していないことだ。2点目は、「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」(以下、評価検討会議)で議論するべき論点が不明確であることだ。目的とはそぐわない論点が多く取り上げられることが、議論の進行を妨げていると考えられる。3点目は、評価検討会議における審議期間が決まっていないことだ。その結果、たとえば緊急避妊薬の議論は評価検討会議で通算約6年間も行われている。
加えて、今後スイッチOTC医薬品を推進する上で課題になるであろう点についても大きく2つ取り上げる。1点目は、日本ではOTCを推進する上での課題や解決策について議論を交わす場がないため、OTC医薬品に関するエビデンスの共有や蓄積がされにくく、OTC医薬品の有効活用に関する日本の方針が不明確なままになっているという課題だ。2点目は、医療用医薬品の処方の際にOTC医薬品の服用を加味した治療を行う環境が整っていないことで、併用禁忌である医療用医薬品を処方してしまう可能性があるという課題だ。
このような課題を踏まえ、本政策提言書では以下5つの施策を提言する。
提言
1. スイッチOTC医薬品 ロードマップ委員会を設置及び、スイッチOTC医薬品に関するKPIやロードマップを早期に策定
2. 評価検討会議の運用を見直し(検討目標タイムテーブルを導入/KPIを達成するために議論すべき論点の明確化/要望書の提出から議論開始までの期限設定)
3. OTC医薬品データベースの構築
4. セルフメディケーション税制と連動したOTC医薬品お薬手帳の作成
5. 日本OTC医薬品学会の創設
【最終稿】政策提言書統合版Ver.10_20230929_圧縮Ver.pdf PDFファイル 1 MB ダウンロード